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船長

 今から20年ほど前、ディスカウントストアーの店長をしているときの出来事だ。繁忙期には、1日に3000人以上の来店客があるため、色々な事件が起きる。

 ある日の夕方、万引きが捕まったと連絡が入った。急いで事務所に戻りドアを開けると、なじみの私服警備員が大柄の男を椅子に座らせ、その男の太い腕をつかみ睨みつけていた。事の次第を聞くと、店内を巡回していた私服警備員が、商品複数点を会計せずに店外に持ち出した男を発見し走って追いかけたが、相手は自転車に乗り逃走した。まるでテレビドラマのように、店の前の国道をたまたま通りがかったタクシーを拾い500メートルほど追跡し、他の大型店に逃げ込んだところを捕まえたとのことだった。

 捕まった男を見ると、一目でロシア人の船員だとわかった。男の服装と、そこから漂う恐らく貨物船の油だと思われる独特の匂いでわかった。埠頭から近いということもあり、この店にはロシア人の船員がよく買物に来てくれていた。カー用品や電化製品が人気だった。そこで当時の私は、日露辞典を買い、こんにちは、ありがとう、さよならなどの簡単な単語くらいは言えるようにして、定休日に出す休業の看板にも手書きでロシア語表記をつけておいたものだった。

 万引きが捕まった翌日、港湾運送会社から店に電話があった。間もなく、ロシア人の船長と、日本人の港湾会社の課長が通訳を兼ねて一緒にお詫びに来た。通訳によると船長は、「私どもの船員が貴店で犯罪行為をしたことを心からお詫びします。今後、船員に対する教育を強化いたします」と言った。私も何か言わねばならない雰囲気だったので、「いつもうちの店を利用してくれ感謝している。しかし、今回の事件は残念だ。買物をするときは、ちゃんと金を払うよう指導してほしい」と告げた。すると、船長はなにやら神妙な顔でぶつぶつとしゃべり、通訳がそれを日本語にした。「このたびの店長の寛容なる精神に触れ、感謝の言葉もない。(中略)今後も貿易を通じて日露両国の発展に尽くしたい」きっと文才がある通訳だったのだろう。私がしかたなく適当につぶやいただけなのに、しかも警察に突き出したのに、寛容なる精神とは恐れ入った。

 それから、2-3カ月に一度、その船長は買物に来てくれるようになり、そのたびに簡単な挨拶をする仲になった。細身の精悍な顔立ちで、年は50代の半ばくらいか。名刺によると、彼の会社はFAR EASTERN SHIPPING COMPANY、名前はVICTOR LAVRENYUK。

 ある日の午後、いつものように買物に来た船長は、電子レンジを10台買うので埠頭まで配達をしてくれと、私に依頼をしてきた。約束の時間に埠頭まで車で配達に行き、上半身裸になり刺青の入った両腕で荷物を抱えた船員をつかまえ、私の名前を告げ船長を呼んでもらった。しばらくすると、船長は貨物船の甲板から手を振り、大きな声で「荷物はそこに下し、こっちに来い」と叫んだ。長く狭いタラップを上り船に入ると、船長が笑顔で迎えてくれ、船長室に案内された。外は真夏の日差しが照りつけており船長室も蒸し暑かった。
 
 船長室といってもそう広くはない。8畳くらいの部屋にデスクと使い込んだ応接セットが置かれていた。船長自らホットコーヒーを入れてくれ、「今日は暑いからこれを混ぜるといい」と言いながら、瓶から透明な液体をそれぞれのカップに注いでくれた。船長は、それを一口飲み、いかにも爽快といった表情で親指を立てた。私もそれに続いてコーヒーを飲んでみた。爽快どころの騒ぎではなかった。一口飲むと、カァーッと顔がほてり体中暑苦しくなった。あとで聞いたら、瓶の中身はウオッカだった。
 
 10台の電子レンジは、親戚と友達から日本で買ってくるように頼まれたのだと言う。ロシアは220ボルトだが、変圧トランスを使えば問題ないと説明してくれた。30分ほど話をして、コーヒーのお替りをやんわりと断り、船長室を後にした。20年前のロシアの男性の平均寿命は57歳。彼は今何をしているのだろう。(小島正晴)

※良い子の皆さんは、外国船籍の船には安易に立ち入らないこと。日本の法律が及びません。
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