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昭和の灯

平成25年3月、仕事の関係で仙台に行く機会があった。ふと思い出し、杜の都に住んでいる先輩に久しぶりに連絡をとった。想定通り、国分町で一緒に酒を飲もうということになり、出張の予定を1日延長することにした。

当日の朝電話があり、私が泊まっている仙台駅近くのホテルに早めに車で迎えに行くから、飲む前に自宅に寄ってくれとのことだった。大体予想はできた。20年ほど前だったと思う。彼の自宅に招かれお寿司をご馳走になったことがあった。そのとき、彼ご自慢のオーディオで、クラッシックをたっぷりと聴かせてもらった。今回もこの種のことに違いなかった。

約束した時間の5分前に、エレベーターで1階に降り、ホテルのロビーに向かうと、すでに彼はソファーに悠然と座り、私を待っていてくれた。綺麗に磨かれたシルバーのメルセデスは、夕方の渋滞が始まる前の仙台の中心部を通り抜け、広瀬川にかかる愛宕橋を渡り奥州街道を南下し、郊外にある彼の自宅に向かった。

定年で会社を辞めて、その後コンサルタントとして主に東京と仙台で仕事をしていることや、その仕事先での様々な出来事を、彼はハンドルを握りながら、人生をゆっくりと振り返るように語ってくれた。そして、自宅が近づくと、話題はオーディオのことになり、なかなか手に入らないイギリス製のスピーカーを調達し、周辺機器も一新した上で、その音響効果を最大限活かした設計をしてオーディオ専用ルームを改造したことを明かしてくれた。

自宅に着き、例の部屋に案内された。その部屋の中心に置かれた、ゆったりとした革製のチェアーを勧められ、特等席に身を沈めた。品のいい家具のような重厚な木製のスピーカーから、彼の趣味であるクラッシックの曲があふれんばかりの音量で流れ出る瞬間を、息を止め静かに待った。

 一瞬の無音状態が長く感じられた。それを突き破り、音が部屋いっぱいに響き渡った。女性の声。アカペラ。美しくハリのあるしっかりとした歌声。予想外のサウンドに圧倒された。ボーカリストの声は石川さゆりのそれに似ていた。
目を閉じて、全身全霊で神経を集中させて聴き入った。息づかいがそのまま聴こえてきた。似ていたのではない。石川さゆりだった。彼女が、私だけのために、目の前で、しっとりと烈しく歌いあげた。至福の時が流れた。今から5年ほど前、知人にホテルのディナーショーに無理やり連れて行かれ、そこで石川さゆりの生のステージに感動したことがあったが、それ以上の贅沢だった。

石川さゆりの歌が2曲続き、その後クラッシック、サザンオールスターズ、ビートルズ、クイーンと続いた。ジャンルを超えた名曲の渦で、音楽による乗り物酔いのような状態になった。

自宅を後にして酒場に向かうため、仙台の街中を目指した。車の中で胸のざわめきについて考えた。音にやられたのだ。石川さゆりの歌声が脳に強烈な痕跡を残しており、2曲目の津軽海峡冬景色はやけに深く胸に染みたのだった。

昭和52年の元日にリリース。そして、その年の大晦日、第17回レコード大賞に輝いた名曲。私は曲の歌詞を覚えるのが極めて苦手な人種なのだが、この津軽海峡冬景色の歌詞だけは、なぜか脳内メモリーが消去されることなく鮮明に残っている。なぜだろう。

作詞は阿久悠。「上野発の夜行列車降りたときから 青森駅は雪の中 北へ帰る人の群れは誰も無口で 海鳴りだけを聞いている・・・」悲しい、寂しいなど、感情を直接表す言葉を使わずに悲恋の歌を作ることに挑戦した曲だと、どこかで聞いたことがある。阿久悠が持つ底知れぬ言葉の力に敬服するしかない。

この曲は、吹き付ける風が音を立て、横殴りの雪が舞う凍える夜に、日本酒を傾けながらひとり聴くのが良い。決して、南国のビーチのワイワイとした喧騒の中で、トロピカルカクテルを飲みながら聴いてはならない。

今日は12月27日。間もなく今年が終わろうとしている。新しい年の3月、上野発青森行きの夜行列車「寝台特急あけぼの」が廃止されるようだ。昭和の時代を駆け抜けた風が、遠い彼方に消えてしまう。「新幹線はやぶさ」の時速320キロは、失恋した心の傷を癒すには速すぎる。トンネルで津軽海峡を渡ったのでは、ごらんあれが竜飛岬北のはずれと、見知らぬ人が指を差さない。JR東日本の見解を聞きたいものだ。そんなことを真剣に考えているうちに、年が明けそうだ。さあ、一杯やりますか。(小島 正晴)
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